◎2007/2/15(木)
この日、久しぶりにシャワーを浴びて、生き返ったようだった。
お腹にたまった炭酸ガス(手術の際、お腹を膨らませるために入れたもの)がぱんぱんに張っていて、それがちょっと苦しい。赤ちゃんがいるわけでもないのに、すごいお腹の出っ張りよう。すべての動作に、やたらと時間がかかる。健康な身体の大切さ、有り難さが本当に身にしみた。まだまだ歩き方は、よれよれ。腰を屈めて、ゆっくりと小幅前進。お腹に力が入らないから、ベッドから身体を起こすのもひと苦労。傷跡も突っ張るような感覚がある。検診後、先生が「うん、順調順調!」と術後の身体に太鼓判を押してくれた。早く、早く元通りになりたい。
彼と、義両親、彼の兄嫁のMちゃんが来てくれて夕食後にはみんなでシュークリームやら苺やらを頬張った。胃腸は何ともないから、食欲はどんどん戻ってきた。
「昨日よりうんといいね。もう眼がしっかりしてるもんね」彼が嬉しそうに私を見つめた。
みんなが帰った後、面会時間が過ぎるまでいてくれた彼。手を握って、優しいまなざしで、私を見ている。「すぐよくなるから。大丈夫だよ。」この人が夫で、本当によかったと思った。
身体の痛みがあるうちは、そのことに気をとられて必死だった。身体が回復してくると、いろんな考えが頭をよぎりだす。この日の夜、失くしてしまった彼との小ちゃないのちを想って、私は声を殺してさんざん泣いた。
◎2007/2/16(金)
どれだけ悲しみに打ちひしがれ涙を流しても、翌朝にはお腹が空くんだ。それが生きていること、なのかも。そうしみじみ思った朝だった。この日の朝ご飯は、やけに美味しかった。牛乳がまた格別だった!前の晩にしくしく泣いたこと、でも食欲があることを姉にメールした。そうしたら「子宮も卵もあるんやし、Kちゃん(彼)おるんやしまた機会あるよ、たくさん食べや~」って返事がきた。そうだ。くよくよしても仕方ない。
この日は、神戸の伯父のお葬式だった。14日、母がこっちに向かう新幹線の中で、母の兄(私の伯父)が亡くなったと連絡が入ったそう。前々から、癌でもう長くはないと宣告されていたけれど、想像以上にその日は早く訪れた。だから、母は大阪から横浜までお見舞いに来てくれて、その日のうちにまた大阪に帰っていった。病室から、伯父ちゃんのことを思って手を合わせた。
周りを見回すと、妊婦さんがたくさんいた。産婦人科病棟だから、当然だ。妊婦さんが、まぶしく見えた。
妊娠。
人間のからだって、すごい神秘だ。今回、私は叶わなかった。でも、どうして私だけ、、、とか、その時そういった後ろ向きの気持ちにはならなかった。不思議なぐらいに。ただただ、お腹の大きな女性たちを見て、静かに感動をかみしめた。いつか私も、あんな風になれるかな。なりたいな。ゆるぎない、希望を持った1日。
[希望の根拠]
苦痛に耐えて、彼や家族にも本当に悲しい思いをさせたというのに、何の根拠もなく、すぐまた妊娠できるという希望を抱いているわけじゃない。そもそも、子宮外妊娠をした原因(要因)は何だったの?
それは、卵管の通りがよくなかったから、じゃないかと思う。
今回手術をして、受精卵が留まってしまった右の卵管を摘除した。左の卵管も、通りがよくなかったそう。左の卵管の内側の角質(?)をきれいに取り除き、通りをよくしておいたからと、先生が言ってくれた。「先生、私また妊娠できますか?」って恐る恐る聞いたら「うん。できるよ」と、先生は頷いた。気が抜けるほどあっさり肯定してくれて、本当に嬉しかった。
片方の卵管を失ったからといって、妊娠する確率が50%に半減するということでもないそうで、まあひと安心。風通しのよくなった左の卵管とともに、気まぐれ赤ちゃんがやってきてくれるのを気楽に気長に、ポジティブな気持ちで待とうと思う。
[思うこと]
だけど、本当に、改めて思う。結婚していて、まだこどもがいない夫婦に投げかける「赤ちゃんは?」「こどもはまだ?」って言葉は、なんて軽はずみで鋭利な刃物なんだろう。こどもがいない夫婦には、いろんな理由があると思う。まだふたりの生活を自由にエンジョイしてるから!という場合もあるだろうけれど、そうじゃないこともある。
私は今、32才。30才になった時から、赤ちゃんはいつできてもいいね、って彼と話してた。当初は聞かれてもどうってことなかったけれど、31才を過ぎた頃から「こどもは?」って聞かれると、小さく傷ついてきたと思う。まだ結婚していない人や、結婚していてもこどものいない人から聞かれるのは、まだいい。でも、すでにこどもがいる人から聞かれると、ひどく落ち込んだ。小さなかすり傷も、数が増えれば満身創痍。私はタフな性格だから、聞かれても「う~ん、そろそろかなぁとは思ってるけど。まだもうちょっと先かなぁ!」なんて、笑顔でやんわりかわしてた。
赤ちゃんを待ち望む気持ちにも波があって「まあいいわ。そのうちそのうち!」とのん気に構えている時は大丈夫、でも「すごく欲しいのに!なんでできないの」と張りつめて考えてる時に「まだ?」と何気なく聞かれたりすると、本当に、ガツンと石を投げつけられるようにショックだった。からだ全部がしょっぱい涙で溺れそうだ。
何も悪くないのに、彼に辛く当たったこともある。(いつだって彼は、私のやるせない気持ちをちゃんと受け止めて、スポンジみたいに吸収してくれた。彼のやるせなさは、何処にいっているのだろうか、、、(笑))
でも、私も。
知らず知らずに、人を傷付けているかもしれない。優しさが裏目に出ることだって、あるだろう。こどものことだけじゃなく、いろいろなことで。誰しも、多かれ少なかれ、抱えていることがあるんじゃないかな、と思ったりして。見た目では分からない、それぞれの内面のダーク・サイド。それでも、人は笑って生きている。
本当に。
人を、思いやれる人に、なりたいです。
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